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「昨日の世界」

「昨日の世界」
これ、シュテファン ツヴァイクの自伝であり、遺書。
この作家、「マリー・アントワネット」の伝記書いた人としてしか知らんかったけど。
彼が、映画グランド・ブダペスト・ホテルの登場人物、グスタフさんのモデルと知って、読んでみたくなった本。

グスタフさんは、エレガントでえげつないヨーロッパの個人主義を体現する自由な人。
彼は、何を害したわけでもなく、他人を尊重し、おもてなしに心を砕き、時代を優雅に生きていただけ。
なのに、最終的には、粗野で無粋な軍靴に踏みにじられてしまう。

一方、文化に彩られたヨーロッパを愛し、自由に生きたかったツヴァイク。
ナチスに追われ、故郷オーストリアを失って、この長い遺書を残し、1942年にブラジルで命を絶ったユダヤ人の作家。

世情に疎い上流に生きたことも、
社交的で、世界中に友愛のネットワークを持っていたことも、
政治がキライでほとんど投票にも行かなかったことも、
繊細で、本質を見抜く曇りない目を持っていたことも、
確かにグスタフさんのイメージ。

でも、映画がコメディタッチで軽快なのに比べて、この本は重い。
戦争の終わりを見ずに死んでいったツヴァイクは、この本を、戦争前夜から戦中、ヨーロッパ崩壊の跡として描いてる。
それが、あまりに今と通じることが多すぎて、とても怖いから。

彼は伝記作家なので、客観的事実に基づいて時代を描く。
その上、目撃者ならではの冷静な視点もある。

第一次大戦では負傷者を運ぶ貨物車に乗り合わせ、あまりの惨状に驚く。
ところが、ブダペストに着いてみれば、穏やかで華やいだ日常があり、その落差にも驚く。

文化人として1度目の世界戦争に反対し、平和が来たときの無邪気な達成感。
そして、自伝を書く「今」の彼から見た、その認識の甘さへの悔いも。

ナチス台頭の頃、ならず者で構成されていたはずの突撃隊が、真新しい揃いの服に身を包み、新車を駆り、プロに訓練された軍事力と武器を持っていく様子をリポート。
背後の資金提供者を推測し、ドイツ産業界を名指しする。

ならず者に支配されることなんて起こり得ない、とタカをくくる知識人。
文化的でないことを軽蔑し、侮り、全てを奪い取られるまで現状を直視することを怠った人々。
見えていたのに無力だった自分。

ナチスの自作自演で巧妙に追い詰められる社会民主党。
高みの見物をしていたイギリスの対ナチス政策の失敗。
「防共」という餌に食いつく為政者や上流階級の愚かしさ。
ヒトラー、ムッソリーニ、チェンバレンの力関係に対する的確な分析。

さらに、過激に革命を唱える「主義者」に対する分析も辛辣。
でもこれ、ウケた。
「私は職業的革命家というものの永遠の典型をはっきり見知った。
そういう人物は、単にその立場が反抗的であるというだけで、価値なき自分が高められたと感じ、自分自身の内部に不動の根拠を持っていないために、主義の公式にしがみついているのである。」

本は、青春時代のエピソードや、同時代に生きた作家たちとの交流なども、かなりの分量を占める。
私にとって、この辺りは退屈。
ただし、友人たち(ロマン・ロランやトーマス・マン、リヒャルト・シュトラウスなど)の現代での評価と、ツヴァイクの描写を重ねて読むと、それはそれでおもしろいかも。

そして、最終ページは、彼が死の間際に書いた遺書。
・・・この私の生命にとっては、つねに精神的な仕事が、もっとも純粋な喜びであり、個人の自由が、地上最高の財産であった。友人のみんなに挨拶を送ります!友人たちが、長い夜の後になお曙光を目にすることができますように!私は、この性急すぎる男は、お先にまいります。

ツヴァイクは、あの大戦前、大人気の流行作家だったらしい。
ところが、ナチスドイツやその占領国で発禁作家になった後、彼の原書は焼かれ、多くは復刻されなかった。
もし、彼が生きて戦後を迎えてたら、どんな風にあの戦争を語ったろうと思う。
この本が語る、時代を凝視した言葉は、とても貴重な記録。
だから、もっと記録してほしかった。
せめて、この本が残っていてよかったけども。
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